私の選ぶこの作品

各界の専門家や著名人から日本アニメーション映画クラシックスの作品群より注目の作品を紹介していただきました。

古川タクさん(イラストレーター、アニメーション作家)

古川タクさん

1941年三重生まれ。TCJ、久里実験漫画工房を経て1970年代よりフリーランスのイラストレーター、アニメーション作家として活動。1975年アヌシー国際アニメーション映画祭審査委員特別賞、1976年文藝春秋漫画賞、2004年紫綬褒章。

古川タクさんの選んだ作品

    ポン助の春

    選定作品1大石郁雄『ポン助の春』(1934年)

    この作品を選んだ理由
    これは文句無しに愉しい。見ているとニコニコしてくる文字通りのニコニコ大会だ。日本にもディズニーがいた!と驚かせてくれた傑作短篇アニメーション『動絵狐狸達引』とほとんど同じ頃に作られたトーキーの音楽物。ホゲッとしたゆるさがたまりませんね。我々の世界最高齢アニメーション作家軍団G9+1が誇るミュージカル派、ひこねのりおさんのアニメーションまで脈々と精神が受け継がれて来ているのだと思う。
    色彩漫画の出來る迄

    選定作品2荻野茂二、大藤信郎『色彩漫画の出來る迄』(1937年)

    この作品を選んだ理由
    切り紙に始まって、セル、影絵、と次々と新しい技法も取り入れ、1937年初のカラー短篇作品「カツラ姫」を公開した大藤さんという人は根っからの実験精神に溢れた個人アニメーション作家だったんだと思う。歌舞伎のような華やかな表現を好む大藤さんはコダクロームを手に入れてさぞかし喜ばれたのではないか?2つ穴タップのセルを手袋なしに割とぞんざいに扱っている以外はそれから30年後に始めた我々が記憶するスタジオと何ら変わっていない。セルを入れる棚も電気スタンドも作業中のサンバイザーまで、このままだった。撮影中の動画を動いた画で見せている演出が光る。
    漫画の列国陸軍

    選定作品3漫画の列国陸軍』(1932年)

    この作品を選んだ理由
    シンプルな画だけに説得力も増す。ボクが生まれたのは1941年太平洋戦争開戦の年である。生まれる8年前の日本か。昨今の世界情勢が余白に見えてきたりして。ラストでクルっと回ってどこかに居なくなってしまう丸さんと角さんはその後どうなったんだろう。ディズニーにも「空軍力の勝利」というのがあるけど、こんなアニメーションは絶対に作りたくないな。