私の選ぶこの作品
各界の専門家や著名人から日本アニメーション映画クラシックスの作品群より注目の作品を紹介していただきました。
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水江未来さん(イラストレーター、アニメーション作家)
アニメーション作家。代表作に『JAM』『MODERN No.2』『WONDER』『DREAMLAND』(全て短編作品)など。ベネチア国際映画祭・ベルリン国際映画祭で正式招待上映や、アヌシー国際アニメーション映画祭で音楽賞・CANAL+賞を受賞するなど、国際映画祭を舞台に活動をしている。
水江未来さんの選んだ作品
- この作品を選んだ理由
- 「野性のアニメーション・パラダイス」
太平洋戦争中に作られた瀬尾光世の長編『桃太郎 海の神兵』や、戦後まもなく作られた政岡憲三の『すて猫トラちゃん』を観ていると不思議な気持ちになる。作品の中で動き回るキャラクターたちに目が離せなくなるのだ。『あひる陸戰隊』もそうだ。ディズニーのアニメーションの様式を真似てはいるが、なんだかとても独特な動き方になっている。現代の日本のアニメーションのように、まだアニメートは様式化されておらず、当時のアニメーターたちの模索している跡が感じられる。要するに、まだ野生の状態なのだ。だから、観ていてゾクゾクとしてくる。現在のアニメーションにはない魅力に溢れている。 - この作品を選んだ理由
- 「どんなときでも、アニメーションは未来を描ける」
この作品が発表された1933年の日本は、どういう時代だったのか?3年前に昭和恐慌、2年前に満州事変、前年に五・一五事件が起こり、この年に、国際連盟を脱退して国際社会から孤立、3年後には二・二六事件、そして、軍部主導の政治による帝国主義により、日中戦争・太平洋戦争への道を突き進んでいく…そういう不安な時代背景の中で、100年後の未来世界を描いたこの作品は作られた。
作品内に登場し100年後の未来を旅する荻野茂二は、作中では1942年に戦争によって死んだことになっている。その1942年に起こった事と言うと、太平洋戦争の攻守転換点となったミッドウェー海戦やガダルカナル島の戦いなど、日本が戦争の悲惨な泥沼への道を進むことを決定づけた年だ。
「もしかしたら自分は戦争で死ぬかもしれない」という失望を抱えつつも、自分が死んだ後のこの世界の未来を、希望を持って描いていることに、創造することの果てしない生命力と尊さを感じる。
どんなときでも、アニメーションは未来を描けるのだ。
荻野茂二が夢見た100年後の世界が来る日まで、あと15年。 - この作品を選んだ理由
- 「無邪気に愛でるカタチへの眼差し」
荻野茂二が、私と同じ36歳の時に作った作品。私も図形を使った抽象アニメーションを多数制作しているので、荻野のカタチそのものへの愛着に強い共感を覚える。
図形の変化を、ただただ素直に追い求めるこの作品から、親が子供を愛でるような、幼い子供が動物や昆虫に夢中になるような、そんな優しさや、無邪気さを、この作品から感じとることが出来る。
徐々に戦争へと向かう時代背景の中、政府のプロパガンダ映画ではなく、個人の密やかな楽しみを追求し、その喜びに溢れたアニメーションが作られていた事実に、現代に生きる表現者たちは、大いに勇気づけられるだろう。
選定作品1瀬尾光世『あひる陸戰隊』(1940年)
選定作品2荻野茂二『百年後の或る日』(1933年)
選定作品3荻野茂二『AN EXPRESSION(表現)』(1935年)
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