私の選ぶこの作品

各界の専門家や著名人から日本アニメーション映画クラシックスの作品群より注目の作品を紹介していただきました。

りょーちもさん(アニメーター、演出、監督)

アニメ『BECK』(2004年)にて原画マンとして参加。『鉄腕バーディーDECODE』(2008年)にてキャラクターデザイン・総作画監督。
『夜桜四重奏~ホシノウミ~』(2010年)『夜桜四重奏~ハナノウタ~』(2013年)『夜桜四重奏~ツキニナク~』(2013年)にて監督・キャラクターデザインを手がける。
『亜人』(2016年)3Dアニメーションにて演出を担当。『正解するカド』(2017年)にて2D3D複合アニメーションの演出を担当し、アニメーションという業種をうろうろしている。

りょーちもさんの選んだ作品

    ポン助の春

    選定作品1大石郁雄『ポン助の春』(1934年)

    この作品を選んだ理由
    感性が現代人のように思える作品。キャラクターの描き方に独特の感性が入り込みポップなのにどこか闇を感じるアダルトチルドレンな表現にまとまっています。季節の変化に内向から外向への変化を含み、計画的なのか無意識なのか、精神的表現域に到達している作品です。描き方はディズニーの動きをしっかり理解して描かれていて、表現の系譜はこうして受け継がれていくというのが色濃く出ています。その一方でキャラクターのかわいらしさがキャラクターの内心とギャップを生み、シュールさが爆発しています。
    百年後の或る日

    選定作品2村田安司『漫画 二つの世界』(1929年)

    この作品を選んだ理由
    紹介されている作品の中でも秀でて画力の高い作家村田安司さんの作品。のらくろなど、ディズニー的動きの誇張の多い作画をされる方ですが、この作品ではレイアウト、静的画面作りに寄った作りでまとめてあるのが印象的です。黒の使い方が上手過ぎです。シンプルな線でまとめていても非常に精密な絵作りに反省が絶えません。既にカットアウトアニメーションという表現ではなく1枚1枚新規で描き現在のセルアニメーションの表現に近い描き方になっている方なので、ここが今のアニメーションの源流なのかと感じるほど表現が卓越しています。時系列で作品を見ていくと進化を感じ、お客様に見てもらい、どう伝えるかを日々研究されていたのでしょうか。年齢も当時30代中盤、今のアニメーターの人たちと何か近いものを感じます。
    なまくら刀

    選定作品3幸内純一『なまくら刀』(1917年)

    この作品を選んだ理由
    100年前に既にこのような表現が完成していた事が、今回拝見して一番の衝撃、カットアウトアニメーションとして現在見ても見劣りしない完成度で最近作ったレトロ風アニメーションなのではと疑ってしまいます。物語はシンプルなのですが、キャラクターの個性が動き表情でしっかり誇張されていて、話に引き込まれついついニヤついて見てしまいます。硬い処にぶつけたら星が飛ぶなど表現としての漫符がすでにある処もこの100年での進化を考える上で非常に参考になる作品です。